2021.08.19
INTERVIEW Vol.9
堤智美ランナー
今回フォーカスするのは、ランナーの堤智美さん。
7年ほど前、友人から勧められたことをきっかけに、「やってみようかな」と気軽に始めたランニング。
それが今や、彼女のライフタイルの中核をなしている。
なぜ彼女は、今日も走るのか? 話を聞いてみよう。
「仲のいいフェス仲間の一人がランニング好きで、
その子が『楽しいし、痩せるし、やってみなよ』と言うので、走ってみようかなと。
それが一番最初のきっかけです」。
当時は「痩せたい一心だった」という堤さん。
「最初は本当に走れなくて、200〜300m走っては歩き、走っては歩きを繰り返すような感じでした」。
それが次第に5km走れるようになり、10km、20kmと、少しずつ距離が伸びていった。
ランナーの共通言語のひとつである月間走行距離も日に日にかせげるようになって、今では平均で350〜400kmは走るという。
周りからすると少ないほうだと謙遜するが、「誰かと比べることにやっきになって、無理に距離を伸ばそうとしても怪我するだけですし」と、
数字にはこだわらない。
「私、コーヒーが好きなんですけど、走り始めた頃は、朝早起きして出勤前に走って、その後に飲むコーヒーが美味しくて。
そういうご褒美みたいなものがあったことも、続けられた理由のひとつだと思います。その日1日、幸先の良いスタートが切れるというか」。
彼女にとって、ランニングはあくまで生活の一部。それ以上でも、それ以下でもない。
小・中学生時代には、陸上短距離の選手として鳴らした経歴を持つ彼女。
なるほど、走ることそのものには、さほど抵抗がなかったのかもしれない。
「全然です。マラソン大会は大嫌いでした。短距離の方が早く終わるし。
高校・大学は何も運動していなかったですから。本当に長距離は社会人になってからなんです。
今は逆に、短距離の方が苦手」。
そんな堤さん、実は3年前まで、万引きGメンとして働いていたとか。
「よく人に聞かれるんです。『万引きGメンって、走って追っかけるんですよね?』って。
でも万引きする方って比較的、高齢者の方が多くて、走って追いかけるようなことはあまりないんですよ」。
走ることが直接、仕事にも役立っていたかどうかはさておき、なぜそこまでランニングにハマったのだろうか。
「たまたま出場したトレイルランニングの大会で、ろくに練習もしてないのに、運よく2位になったことがあったんです。
それで『もうちょっと頑張ったら、もっと上に行けるかも』と思って、ちゃんと練習するようになりました」。
現在、東京・神田のアウトドアショップと、高尾山の麓にある登山者やトレイルランナー向けのゲストハウスに勤務する傍ら、
合間を縫ってトレーニングするのが堤さんのライフワークだ。
「神田の時は自宅から往復15kmくらいを自転車で通っています。
皇居が近いので、仕事終わりにランニング仲間と走ったり、ジムでトレッドミルを活用したりしてトレーニングしています。
一方で高尾の時は、出勤前の早朝に走ったり、仕事終わりにナイトランをしたり……」。
ちなみに、休みの日もほとんどは山へ出かけて走ること多いそう。やはり彼女の生活の中心には、ランニングがある。
「コロナの前は、それこそ月1回くらいのペースで大会に出ていました」。
シンプルに「レースで上位を狙いたい」。それはつまり、「あの時の自分より、速くなりたい」ということにつながっている。
「10月に『OSJ KOUMI 100』っていうトレイルの大会に出場する予定なんです。
35kmのコースを5周する、総距離175km(制限時間36時間)のレースで、完走率が低いんですよね。
これをしっかり完走する、というのが今の目標です」。
そのためか、普段は毎晩食べていたポテトチップスも、数カ月前からやめているそう。
かといって、過度な食事制限はストレスになるとも。
「ランナーなのにラーメンが好きで、そのために走っているようなところもあります。
それにお菓子も好きで、だから痩せないんですけど(笑)。けど変に我慢しないぶんストレスもありません。
矛盾するようですけど、私の一番の目標は、『生涯、健康でいたい』っていうことなんです。
ランニングを続ける理由も、実はそこにあるのかもしれません」。
堤さんにとってのランニングは、義務とも、ノルマとも、日課とも違う。
生活の中に溶け込んでいるとはよく言うが、正にそんな感じだろう。
気負わず自然体で、内面と向き合いながら、自分のために走る。
奇しくもランニングの本質を表現しているような人だった。
堤 智美
1982年生まれ。
ダイエットを理由に2014年からランニングを始め、
これまでにロード、トレイル、ウルトラと、カテゴリー問わず、さまざまな大会に参戦している。
主な記録は、フルマラソンでは3時間21分17秒(勝田全国マラソン/2018)、
トレイルランニングでは11時間20分17秒(OSJ ONTAKE 100/2017)、
ウルトラマラソンでは34時間12分36秒(小江戸大江戸200K/2021)など。